5時頃に芸術村に行く。稽古の準備をはじめる。
私と月原君が、太い角材を平台に打ちつけていると、芸術村に取材に来たらしいメンバーが歩いている。
「皆さん、わたし達は芸術村に来ています。」なんていう女性のアナウンサーの声が聞こえてくる。
すかさず月原君はわざと大きな音で釘を打ちつけ始める。
「怒られたりしてね。」といってる私の背後から「何をしているんですか?」というさわやかな声。
地元のFMラジオだそうだ。ラッキー。
「手作り」というテーマで取材をしていて、芸術村にくればなにかやっているだろうと思ったそうな。
しかし、わたし達にしてみれば、格好の宣伝です。
なにせ今回は時間もなくて、慌ただしい毎日だったので、プレス関係の宣伝は一切していない。
ここぞとばかりに生放送とは知らず、アナウンサーの質問を半分無視して、しゃべくりたおしました。
台本があったかのような連携プレー。
当日芝居を観に来たアンゲルスのメンバーがその放送を聞いていたとか。
でもそれを聞いて観に来たお客さんがいたのかどうか、その報告はまだ受けていません。
さていよいよ、初日があけます。私は朝の9時までパンフレット作成をしていたので、寝不足です。
4時から通し稽古。いわゆるゲネプロというやつです。
東京からは、同じ劇団で、スケジュールが唯一空いている「奇跡の人」班のメンバーが、三人観にきてくれました。
そりゃあ皆さん緊張してました。私もですけど。
この始まる前の緊張感は何年やっても馴れませんし、「この緊張感がたまらない」なんて台詞も言ってみたいけど無理みたい。
階段上になっている客席の上にはちょっとしたスペースがあります。
そこにテーブルを並べて、楽屋にしました。支度をしているのも全部、丸見えです。
初舞台を踏む4人娘。東京演劇アンサンブルの俳優4名、現役高校生2名、舞踏家1名。
アマもプロも一緒になって、各地から集まってきたメンバーが、一ヶ月の間金沢に住んで一つの芝居をつくる。
みんな、昼間は仕事や学校に通い、夜のわずかな間だけしか稽古は出来ません。
あまりに短い稽古でしたけど、あくまでワークショップです。
これが完成品とは考えていません。これからも何度も作りなおして、やり続けていく仕事です。
今日の舞台もその過程です。
舞台の真ん中に本物の鉄鎖につながれて、最後までそのままの状態のアトムが、
堂々と台本を持ってプロンプターをやっています。
照明は色を入れない生明かりを、水上ステージの左右から4発と客席前から2発のみ。顔が見えるようにするだけの簡単なもの。
音楽は一切なし。電車の通る音や、隣から聞こえてくる、ドラムや太鼓の音がSEです。
緊張する場面になるとなぜか偶然電車の「ガガーッ」という音がいい感じで入ってくれます。これだからおもしろい。
突然黒いドレスを着た「新人類人猿」の今井淑恵さんが、水の中をゆっくり歩いています。
もちろん私もなにも聞いていませんでした。コーディーリアに絡んだ印象的なシーンで何カ所か出てきます。
多分、岡井氏が直前に今井淑恵さんと打ち合わせたのだなと思っても、やはり、思わず見入ってしまいます。
前舞台で全然違うシーンを演じている後ろで、コーディーリアが何度か水上ステージに大きな黒い旗をたなびかせて入り込んでくる。
一見、関係なさそうなシーンの中に、突然異質なものが入り込んでくるイメージなのでしょう。
そう思って稽古を観ていましたが、予期していなかった淑恵さんの登場は稽古をみていた私も、突然異質なものが入り込んできたという自分の中の生な感覚にドキリとしました。
この舞台は入場無料です。街頭劇は投げ銭が似合います。
「おひねりのつくりかた」という紙をつくって、これをお客さん一人一人にパンフレットと一緒に配りました。
終わってからお客さんから集まった投げ銭総額11222円。お客さんのほとんどがおひねりを渡してくれました。大したもんだ。「おひねりでこれだけの芝居をみせてもらえて、得した気分です」という感想もアンケートにありました。
本番の特集ページを別につくります。詳しい様子はそちらのページで。写真や裏話などもあります。
でもまだ出来てません。
今日の本番は7時。
3時半、芸術村に入る。4時から通し稽古。6時10分位まで、ダメだし、その他。
でも、7時ジャストには始まりません。
お客が集まるのが遅いようで、結局7時5分くらい。
そではないので、お客さんから丸見えの入り口で役者はいろんな人と話をしたり、大笑いしながらスタンバイ。
緊張していないわけではないけれど。
岡井氏が「そろそろやる?」と聞きにきます。
こんな感じで始まりました。
いかにも街頭演劇風で、劇場でやるときの開演前のピリピリした感じとはまた違って、オープンな空間ならではの始まり方です。
今日はいわゆる、「魔の二日目」と仲間内ではいわれている日です。
初日の緊張感というのは独特で、あるぴーんと張りつめたものがあります。
やはり人間。二日目はどうしても、なにかが緩むのです。
でも、まあ、なんとか終わりを迎えました。
今日の投げ銭総額は13000円ほど。千円札も結構多かったぞ。
片町にある、「白木屋」で打ち上げ。向かう途中で雨に降られました。
大粒の雨です。
「この雨が、本番中に降ってくれたら面白かったのに」との仲間内での会話。
二次会はまあ、定番のカラオケ。私と月原くんを除くと、あとのメンバーは現役高校生に予備校生。あらら・・・。
明日からは学校が始まるというのに、あさの4時頃まで、大騒ぎ。うーん若い。でも保護者同伴だからいいですよね。
タクシーから降りて、家に戻る道すがら、月原くんに少しだけ、芝居の感想を聞きました。
「僕たち、めっちゃレベルの高いことしてへん? シェークスピアを照明も音楽も使わんと、やってんねんで。」
さあ、これを”うぬぼれ”ととるかどうか、難しいところです。
二時間という長い時間、休憩なしで役者の肉体だけでやり抜くということがどういうことか。
私にとっては、面白い体験であったことは確かです。
やっている最中、電車はすぐ後ろをすごい音を立てて何度も走り抜けます。
隣のミュージック工房からは、和太鼓の音やら、ドラムの音が人の出入りの度に響きわたります。
それを承知の上で、デリケートに守られている劇場の空間とは違うこのオープンスペースで観客を2時間引きつける。
これは、「お客さんにはこういうのが受ける」とか、「これではお客さんはせりふが聞き取りづらいだろう」とか心配して芝居をつくっているのではない、というのはあきらかです。
あくまで、騒々しいかもしれないこの空間で何かをつかもうと、それぞれが自分の内に探っている様子をお客さんが観ている。
興味があれば真剣に観るだろうし、つまらないと思えば帰ってしまう。
でもね、帰ったお客さんは一人もいませんでしたよ、ほんと。あれっ、3人ほどいたかな。